アトリエ・マイルストンブログ

2016年12月19日月曜日

ワイエスとジャニスの孤独

月曜日・晴れ・
本日も穏やかな小春日和の1日でした。
アトリエ定休日

「名作美術館(その203)」

今回もまた前回に続いてのワイエス作品の登場です。
20世紀アメリカン・リアリズムを代表する画家の典型的な冬枯れの風景画です。

Andrew Wyeth, "Brown Swiss",Tempera on panel,1969

画題の「ブラウン・スイス」とは米国で広く飼育されている牛の種類ですが、画面にその姿は登場しません。
推量されるのは左の建物がその牛の畜舎なのか、或いは画面を支配する茶褐色の草地の色合いなのか、
そんな謎の画題はさて置き、筆者が注目するのはその横長な構図と描かれた物質感そのものの方です。
画面を横切って草地に張り付く陰は画面手前の丘陵の成す日陰なのか、その中央で水面が輝いています。
その水面の輝きは際立っていて、実際の草地の固有色よりも明るく、画面奥の丘もまた高いことを示唆し、
描かれた農場の場所の地形が、外部世界から閉ざされたような大きな窪地であることを暗示しています。
陰に囲まれた輝く水面が張りつめた空気と温度を提示し、見る者に想像力を働かせることを求めています。
画題の牛の姿も、その飼い主の人影も無く・・・。鑑賞者・自らの想像力が否応なく静かに試されるのです。

他人との接触を好まなかった画家は自らの狭い世界に沈殿し、その中で画題と出会い、静謐な世界を紡ぎ、
それらの無言画面を通じて見知らぬ者(鑑賞者)たちに、画家が人生で見つけた「美」を提示するのです。
その孤独な日々が画家独特の世界を醸造・発酵させ、多くの鑑賞者たちに「孤独美」を発見させるのです。
黙して語らないことで見る者に見て想像することを教唆し、その交感が最も雄弁な表現と成り得るのです。
それこそがこの世捨て人画家の持つ、反語的レトリック(修辞法)世界なのです。
その暁に、枯れた木や草や、光や影や、白壁やその汚れが美しく活きるのです。

* * *

「ミュージック・ギャラリー(その246):ジャニスの孤独」

今回の当コーナー、前日のMSさんのジャニスと、上の作品製作年(同時代)と、孤独、の3点繋がりです。
20世紀米国を代表する歌姫ジャニス・ジョプリンは、筆者もまたリアルタイムで大きな衝撃を受けました。
その前代未聞の悪声シャウト唱法世界は、高1になりたての少年筆者の度肝を抜き、脳天を直撃しました。
彼女のデビュー盤はそのジャケット絵と共に、筆者の大々お気に入りとなって、日々その音を浴びました。
ジャニス、当コーナー3度目(過去に同LPの「サマータイム」や晩年の「ミー・アンド・ボビー・マギー」)です。
当コーナー、ヘビー過ぎるものは避けてきましたが、今回も例外的にアップしました。初体験の方もどうぞ。

ジャニス・ジョプリン、「ボール・アンド・チェ―ン」、1969年
Janis Joplin,"Ball And Chain", from Her 1st, album "Cheap Thrills "

この破天荒なシャウト(叫び)、魂の奥底の発露と取るか、ただのヒステリック独りよがりと取るかは、聞く側次第。
バックのホールディング・Co.の演奏も超秀逸で、ジャニスの歌声と一体となった正に神がかり的なアレンジです。
彼女の表出した音楽やステージングは、そのデビュー・ライブ以来、今もなお多大なインパクトを与え続けています。
ほぼ無名だったモンタレーでの衝撃的な初見参パフォーマンスは伝説となり、彼女の名声を一気に高めました。
今でもその影響は大きく、日本国内では女性歌手スーパーフライあたりにその直接的影響を聞くことが出来ます。

そのジャニス、名声の高まりと共にドラッグやアルコールにも依存、その繊細な精神と身体を痛めつけました。
輝けるロック・クイーンの名声とは裏腹の心の孤独・渇望は増し続け、その命を燃え尽きさせてしまいました。
孤独を忌み嫌いながらも、その孤独に支配されて逝ったジャニス・ジョプリン、享年・若干27歳。


筆者は高1の初視聴から大ショックを受け、以来、何度そのアルバムに針を落としたか分からない程、聞き込みました。
中2で英国はR・ストーンズ製のブルースを聞いてブルースに開眼(耳?)、その生まれ故郷の伝承者に出会いました。
未経験だった大人の闇夜世界とも言える魔法音楽の虜となり、半世紀ほど経た今でも大好きなジャンルとなりました。

* * *

ついでの立派な「デイリー・ギャラリー(その47):レコード・ジャケット・デザイン」

ジャニス・ジョプリンの衝撃的デビュー・アルバム「チープ(安直)・スリル」のLPジャケ表紙イラスト、傑作です。
筆者も高1時に部分を幾つか模写し、バス・ドラムの前面に貼っていたことがあります。
中央部・円形画面が今回の曲の「ボール・アンド・チェーン(鉄球と鎖。囚人の足かせ)」。
中表紙・見開きのモノクロ・ステージ写真も、サイケデリックな雰囲気で憧れたものです。


左:(多分)囚人服姿のジャニス、今となってはその後の生涯を暗示しているようで、笑っては見られません。
右:昨日、MSさんが描いた表紙ジャケットの裏面の若かりし頃、シスコにやって来た頃のジャニス。
筆者がそのLPを購入したのもこの裏ジャケ写真に吊られた、いわゆる「ジャケ買い」と言う奴です。 
衣服こそ時代の反映が見られますが、その表情は初々しい少女のあどけなさが未だ残っています。

ジャニスの魂の叫び、その手段としてのブルースやロック等、筆者の半生のBGMともなりました。
その時代のリアルタイムな出会いに感謝です。

By 講師T