アトリエ・マイルストンブログ

2016年10月4日火曜日

T講師のアート・ワーク:2

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「T講師のアート・ワーク(その2)」

「旧作(その2):油絵模写始め」

当コーナー初回は、美術学校時代に学んだ本格的・古典技法を3点アップしました。
 2回目の今回は、学校入学以前に筆者独自で行った油絵模写を2点アップしました。
 
油絵、描き始めて数点目に挑んだ初めての模写です。
原作は2点共、16~7世紀イタリア・バロック期を代表するカラバッジョの作品です。
ファブリと言う安価ながら大判画面・少数ページの画集が、模写の動機を作りました。
その写実的でドラマチックな描法に感銘を受けた若かりし筆者、即座に模写を決意。
初心者の筆者、下の静物画はトレースも行わず、いきなり左側から描き始めました。
初めての模写、筆者今でもその時のことを一部始終に渡り、鮮明に記憶しています。

時は冬最中・師走の夕刻・夕食前・・・、所は東京は中野坂上の小さな木造アパート・・・。
模写に燃える筆者、白い4号キャンバスに向かって線描も もどかしく筆を走らせました。
左上の葉から斜めに降りていって、林檎や梨、3種のブドウ等を無我夢中で描きました。
我に還って空腹を自覚したのは真夜中の12時、筆者6時間も筆を走らせていたのです。
防寒にジャンパーを着込み、1枚の食パンを無理やりコーヒーで流し込み、描画を再開。
中央下、カゴの網目を描き終わったのが深夜の2時頃。眠る気のない筆者、更に描画。
右側の枝や葉を終えて3時。もうヘロヘロ。でもやめる気なく、背景の塗りつぶしで4時。
給湯器も無いアパートの共同台所の冷たい水で手を洗って用を足し、コタツに即直行。

翌日正午過ぎ、爆睡から目覚めて、人生初めての記念すべき油絵模写に再会。
密度ある画面左から中央に比して、夜半過ぎに描いた右側の枝葉の何と稚拙なことか。
何はともあれ、若さゆえの情熱と浅はかさとが描かせた油絵模写の第1号となりました。



「油絵模写2作目:仕上がる前に・・・。」

「結構、描けるじゃん」と気を良くした筆者、同画集から2作目を選定。ドラマチックな光景の宗教画です。
今度は初のP20号で、2作目模写に挑みました。今回は大まかな碁盤目を罫書き、構図取りしました。
真っ白なキャンバスがとてつもなく大きく感じられつつも、武者震いをして深夜から取りかかりました。
今回もまた画面中央部のヒゲ男から描写し、周囲に筆を広げ、夜明け前に背景を黒く塗り込めました。
「仕上げの明日も楽しみだ。」2日で仕上げるつもりの興奮気味の筆者は朝の光差す部屋で布団に。

ところが筆者、赤坂からのバイト帰り、新宿の大手本屋で1冊の翻訳技法書に出会ってしまいました。
「グザヴィエ・ド・ラングレ著、油彩画の技術」。掲載の絵はファン・アイク等の超写実古典絵画です。
著者はフランスの国立美術学校の教授とのこと。筆者、即刻、立ち読みに夢中になってしまいました。
これまでの国内の技法書には無かった、西洋古典絵画の各技法が懇切丁寧に紹介されていました。
「「バーントシェナ(赤褐色)での下塗り、何それ?」「中間色下地、何それ?」
そこには知りたかったけれど知り得なかった昔日の写実画家たちの技が詳細に紹介されていました。
筆者、その分厚い新刊本に一目惚れ。高価ながらも即購入。帰宅後も一心不乱に読み耽りました。
衝撃的な本との出会いで嬉しい半面、昨夜描き始めたばかりの模写の間違いも明らかになりました。
それはカラバッジョなどは、下塗り・下地として中間色の絵具を施してから描き進めていたことです。
2日目の完成を目論んでいた無知な筆者、このまま進めるべきかを悩み、結局断念してしまいました。
40年も経た今、「1日で仕上げたカラバッジョ」「未完のカラバッジョ」、そこに20歳の筆者が在ります。


「求めよ、さらば与えられん。」とは聖書の有名な一句です。
その後、筆者は幸いにも前回・前述の国内唯一の西洋古典絵画を教えてくれる美術学校に出会い、
そこで学んだ多くの論理的・物理的・化学的知識を基に、その後の仕事に活かし、今日に至りました。
幸いにも筆者、これからもその知識と経験を更に活かしてゆけることになりそうです。

長々と、単なる思い出話になってしまいました。悪しからず。

* * *

「新作(その1);習作・自由模写」

上も模写なら、下もまた模写。
色々とやりたいことだらけの新作予定ですが、その主だった一つに我が国伝統の絵画があります。
その世界を画面にしてみたく、その前哨戦・予行演習として形象・筆使い等の習作を描いてみました。
単に見つめるだけでは分からない昔日の絵師たちの息遣いや筆さばきが感じられて、面白いです。
下2点は俵谷宗達・本阿弥光悦の作品からのアレンジ模写で、飛翔する鶴の群れを描いてみました。
初めての今回は正確な輪郭・形体を追うよりも、絵具での速度ある筆の運び具合を試してみました。


一筆書きで何気にサラッと描いているように見える宗達の形象、素晴らしく恐ろしく洗練されています。
たった2点描いた位では到底似たようにはならず、野暮臭い事この上なしですが、場数をこなす予定。
日々のトレーニングを重ね連ねることで、一朝一夕には到達不可能な技を得ることを可能にします。
昔日の絵師たちは幼き頃より修業を積んだ描法の鬼・職人たちです。即刻に真似ることは困難です。
今しばらく、本番前のトレーニングやリハーサルを色々と楽しんでみます。

By 講師T