アトリエ・マイルストンブログ

2016年9月26日月曜日

ボナールの黄昏「テラス」

月曜日・薄日 薄曇り
蒸し暑い一日でした。

今月は湿り月で、列島上空の停滞する秋雨前線の影響で、爽やかな晴天の日はたったの5日のみ。
朝夕こそ気温も下がりはしたものの、何だか夏を引きずっていて、秋情緒も中途半端で今一つです。


「名作美術館(その191):ボナールの黄昏(たそがれ)テラス」

天候不順な季節の変わり目には良いかも知れないと思える1枚を選びました。
筆者の大好きなボナールが得意とするガーデン・ライフの様子が描かれています。
但し、爽やかさよりはそこはかとなく移ろう季節感みたいなものを、筆者は何となく感じてしまいました。
テラスの向こうに広がる遠景上には、千切れ雲に覆われた夕刻時のような気配が漂っているようです。
前景のテラスより一段と低くなった斜面の中央には二人の姿があり、黒服が男性で、橙色が女性かと。
左の婦人はガウン風な衣服で庭の手入れを、傍らの男性はその光景を見ているか、あるいは読書中か。
テラスと斜面の庭とを区切る右手の石(レンガ)段の上には、開花期を終えた空の鉢が置かれています。
テラスに設えた丸テーブルには水差しと容器、板塀の手前の補助テーブル上には二人分の皿と食物が。
黄昏時を感じさせる雲空と薄光とが、二人の人物の年輪やその対価としての状況を推測させる画面です。
秋訪れ前のつましい1日の黄昏のようで、二人の人物を囲む小さな2本の木もまた或る投影に見えて・・・。


ピエール・ボナール、「テラス」
Pierre Bonard. " The Terrace"

美しい自然と人の想い・営みが織りなす美しい風俗・風景画です。

* * *

「ミュージック・ギャラリー(その228)」

今回の当コーナー、筆者、上の絵を見て「これしかない!」と即決しました。
筆者、若かりし高校時代に大ヒットした名盤の中のタイトル・テーマ曲です。
以前にも「イッツ・トゥー・レイト」紹介の際に記しましたが、綴れ織りと言う言葉も織物も初めて知りました。
ロックに夢中だった小僧の筆者を、彼女の歌声が成熟した大人の魅力をも開眼させた名盤中の名盤です。
しかも、歌詞の中に出てくる黒い服を着た男が、ボナールの絵の中の男と瞬時にオーバーラップしました。
加えて、歌詞で登場する綴れ織りの様々な色合いもまたボナールの絵画世界そのものようにも思えました。

このアルバム、ビートルズやジャニスのチープ・スリル等と共に、一体何度 針を落としたか分かりません。
20世紀アメリカが生んだ天才的シンガー・ソングライター、時代を超越した永遠の歌声・詞の世界です。

「タペストリー(つづれ織り)」、キャロル・キング(1971年)
"Tapestry",/ Carole King

時代の空気感を見事に反映した傑作アルバムの傑作ジャケット。
CDのプラスチック・ケースでは表せない室内光や匂いが秀逸です。

数々の名曲メーカーのキャロル・キング、嬉しいことに現在も健在・活躍中です。
女性シンガー・ソングライターの草分けで、ピアノを前に歌う形も彼女が最初です。
2013年にはグラミー賞・功労賞や、女性作曲者初のガ―シュイン賞も受賞しました。
鼻にかかる独特の発声法で、詩情豊かでヒューマンな世界を織り綴り続けています。

筆者に彼女の「タペストリー」を初めて聞かせてくれた友人は、25歳の若さで逝ってしまいました。
ハワイに住んで結婚間近だった好青年の彼が逝ってしまったのは、もう30年以上も前のことです。
絵もたくさん描いて、ピアノも弾き、他の楽器もマルチだった彼は、天才的な素質を有していました。
ボブ・ディランやバーズやニール・ヤングやジェームス・テイラーや12弦ギターも教えてくれました。
また、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」等のアメリカ文学の代表作なども教えてくれました。
この曲を聴くと、その向こうにその友人の歌声やアコギやピアノの音がオーバーラップしてきます。
帰郷の際にはお線香を、と思う季節の狭間の今日この頃です。

By 講師T